売っていない、ずくし柿。


目の前に柿があります。届いたときは、とっても渋〜い、渋柿でした。その中に、何個かちょっといっているものが。つまり、熟して柔らかくなっているものがありました。要は腐りかけというんでしょうか。この渋い柿は西条柿という品種で、その時はどうしようもないくらいの渋柿なんです。我が家には毎年、どっと西条柿が届きます。この渋柿を吊し柿にするわけです。さて、その腐りかけというか、熟した柿を、ずくし柿と呼びます。たぶん。熟しがなまって、ずくしになったんだと思うけど。子供の頃は、ずくし柿をよく食べたものでした。奈良市の東の方の山の中に農家の親戚があって。その家の周囲には柿の木がいっぱいあって、柿は取り放題だった。で、おいしそうなでっかい柿に思いっきりかぶりついたら、とっても渋くて、思わず放り投げたっけ。で、同じようなでっかい柿で、ふにゃふにゃになりそうな柔らかい柿におそるおそるかぶりつくと、とっても甘かった。ちょっとずるずるしているんだけど、もう甘くって、おいしくって、いっぱい食べたらお腹をこわしちゃった。でも、その田舎に行くこともなくなり、大人になって、そして東京に出てひとり暮らしをして、ずくし柿なんてのはすっかり忘れていました。そういえば、2年前に久しぶりにずくし柿を食べたっけ。ずるずるしながらスプーンですくって。さながらデザートですね。なんの甘味料も、食品添加物もない、自然そのままだけの味です。甘くって、また甘くって、おいしいんです。そして、種の回りにまとわりついているずるっとしたのが、あんまり味はないんだけどすきなんですね。だから、それを舌と歯でつるんと剥いて、種をポロッと放り出して、またずくしを味わうんですね。甘い。おいしい。まだ、あと2個もあります。ずくし柿って、売っていないんですね。ま、売るのも難しいか。おいしいのに。