殿は、玉子豆腐が好きだった。


夕ご飯時の、私たちが食事をするときに、猫の殿は必ずテーブルに上ってくる。で、必ず、そのひと皿ひと皿に対して、鼻を動かしながら臭いを嗅いで吟味する。今日は、殿の食べられるものがないよ、と言っても、テーブルのはじっこにちょこんと座って私たちの食事風景を眺めるのが恒例になった。そのくせ、自分の容器に入ったご飯はあんまり食べない。以前は犬の陸がいて、自分のご飯を早く食べないと掻っさらわれてしまうから、慌ててがっついていたのだが、もうその陸もいないので、お残ししても悠然としている。このときは、私たちの一品に玉子豆腐があった。また、例によって、殿が器に顔をつっこみ、クンクンと嗅ぎだした。で、しばらくすると、玉子豆腐をペロペロ舐めはじめた。なに?そうか、だしのかつお節の匂いに誘われたんだな。しょうがないので、玉子豆腐の一片を殿に差し出す。ペロペロしながら、あっという間に食べちゃった。はい、これで最後。同じ量を差し出したが、これもあっという間だった。まだ欲しそうにこちらをみている。もうあげないよ。きりがないからね。陸がいなくなってからは、本当に我が儘になっちゃって、ひとりじめだなあ。