「はーしんどー。はーえらー」


それが私が入院した次の夜に、聞かされることになった寝言だ。今回の入院は、寝言につきる。もちろん私じゃないよ。自分で自分の寝言は聞けないからね。チラッと寝言の主を見たのだが、歳は80歳前後で、車椅子に乗っていた。その人は身内や病院のスタッフから、もっと歩きましょう、といわれるのだが、歩こうとすると頭がフラフラして胸もむかついてとても歩けないのだそうな。辛いだろうな、と思うのだが、私の同情もそこまで。食事の後、看護士さんが「食事は食べましたか〜」と尋ねるのだが、「味がうすーて、かないまへんわ。飯かて、外米でっか。くっちゃくっちゃして味があらへんがな」。もうこの患者さんは、塩分のない腎臓食から解放されているはずなんだけど、味に厳しいというか。はっきり言って、我が儘だねえ。こんな食事は不味くって食べられない、ということを遠回しに言っているだけじゃないか。私なんぞはごらんのようにペロリと完食なのに。まあ、そういう風に、隣やら向かいやらの患者さんと病院スタッフや家族との会話がカーテンの向こうから聞こえてくる。4人部屋はかくも賑やかで、様々な話題に満ちている。だから、皆さんも入院するときは個室じゃなくって、大部屋がお勧めですね。ま、そんなこんなで、入院初日は過ぎていく。次の日は、午前10時30分から私の手術。なので、病室に戻ってからは、酸素マスクを付けて、ベッドに寝たきりが午後3時まで。点滴なのでもちろん食事もない。酸素マスクを外してからも、ベッドでちょっと横を向く程度しか動けない。なので、周囲の様子には敏感になる。そして夜になり、消灯を過ぎると、隣からは喘ぐように「はーしんどー。はーえらー」という寝言が聞こえてきた。病院だからか、それとも自宅でも口に出るのか。やっぱり、辛いんだろうな。