家へ、帰ってきた。


そりゃ〜、家から出掛ければ帰ってくるのは当たり前なんだけど、私は出掛けて帰ってきた。なんで「家へ」の後に、わざわざ読点を入れてあるかというと、その読点には、ふうう、という、やっとという感覚を織り込んでいるためだ。やっとという期間は、ほんの4泊5日だが、その宿泊先が毎度の病院だったために、テレビもネットもない病棟生活にいささかうんざりしつつあったから、家で気ままに過ごせる自由というものが本当にうれしくもある。そう、10カ月ぶり4回目の入院だった。何のために入院したかというと、経尿道的膀胱腫瘍切除術のために。この長い10文字熟語も、最初はなんのこっちゃ、だったんだけど、しだいにわかるようになった。つまり、経尿道とは、尿道を経由して。的膀胱腫瘍は、的が膀胱腫瘍で、その的を切除する手術なんだ、と。切除とは言っても、狭い尿道の中を通れる手術器具なんてそんなに大きくないだろうから、そんな機材で膀胱の内壁にある膀胱腫瘍と思われるところをガリガリと削るのだ。むろん、私は全身麻酔なので、何をされているかはさっぱり覚えていない。その切除術が行われるのは入院の2日目で、本当は昼の12時予定だったんだけど、前の人の手術が予定より早く済んで、私の手術が1時間ほど早くなった。ま、それはそれでうれしいんだけど、なんで前の人は早かったのかなあ、という思いが私の中にはあった。要は、そんなことでも考えないとやっぱり不安じゃない。もしかして、麻酔から目を覚まさなかったら、なんてことも考えないわけじゃないから、それ以外のことを考えることにしたわけさ。ま、そんなこんながあって、家に帰ってきた。妻と家に帰ってきて、いつものように陸はドテッと廊下に寝ていた。殿は籐椅子の上に寝ていた。そんなわけで、私はひとまず安心。