おばあさんと老犬。


動物病院の庭、つまり待合室の外で陸と診察に呼ばれるのを待っていた時だった。一台の自動車が、そろりそろりと駐車場に入ってきた。クルマの後ろには、紅葉マークがあった。自動車から、ひとりのおばあさんが、中型の白い犬を今にもずりおちそうに抱きかかえて車の外に出てきた。さらに初老の女性も付き添うように、おばあさんの後に続いた。白い犬は、かなり老犬で、苦しそうに息も絶え絶えの状態。だから、病院に連れてきたのだろうけど。車から出たおばあさんは5メートルくらい歩いて、抱く体勢を立て直すためか、一度その犬をアスファルトにゆっくりと下ろした。犬は立ち上がれずに横になったままだった。かすかにお腹が上下している。また、おばあさんはその犬を抱き上げて、ゆっくりと病院の入口に向かっていった。私が見たのはそこまでだった。もう歩けないのなら、乳母車のような運べるものを用意してあげないと、おばあさんも大変だが、犬も苦しいだろうに。しかし、そういう状態になった犬をわざわざここまで連れてきて、どうしようというのだろうか。安楽死という言葉が、私の頭をよぎった。

その時に待合室で待っていた妻から、後で聞いた話だけれど。おばあさんに、付き添っていたのはヘルパーさんだったようで、病院の獣医さんもヘルパーさんも安楽死を進言したのだけど、おばあさんはガンとして受け入れずに、あくまで治療を願い出た、ということだった。確かに老犬は、高齢のおばあさんが生きる支えというか、生き甲斐かもしれない。でも、その老犬は、立つこともできないのに病院に運ばれて、そして延命をはかられる。それが犬にとって本当に幸せなことだろうか。我が家の猫の殿は14歳、犬の陸は13歳。やがて老いて力の尽きるときが来るだろうけど、やすらかに見送りたい。決して辛いことはさせたくないから。さて、今のところ、陸の鼻血も収まっています。つるんつるんだったお腹も、少しずつ毛が生えてるような。でも、毛を剃ると、お腹のふくらみが目立つんだよね。陸〜、今度こそ、やせようね〜。