いつもそこにいるから、気持ちが安らぐ。


いつも何かをしています。カーテンのすき間から、じっと外を覗いたり。時々、カラダを舐め舐めしたり。大概は、寝ています。それを、私は眺めています。はい、猫の殿です。そこにいるよね、と思って。振り返ると、いないことがある。まあ、あんまり気にしません。殿、いたよね。2階にいるんじゃない。かすかに、気になる。ん、と思って気にする。妻が、気になって2階に上がったりする。殿、2階にいた、と妻の声が上から聞こえる。そうすると、浮かそうとした私の腰が、また椅子にどっかりと。そりゃ、猫だから、好きな場所でくつろいでいます。どこにいるかを想像しながら、私の気持ちが安らぐんです。

ちょっと不安になるのは、時々、殿は外へ出たそうに、玄関の戸あたりを探っている。夜に玄関の外で私がタバコを吸っていると、後ろでチリンチリンと音がする。磨りガラスの向こうに、殿のシルエットが伺える。タバコを吸い終わって、玄関の戸を細めに開けると、すき間の向こうに殿の顔が見える。ダメッ、外に出ちゃ。押し返す。あきらめて、玄関の上がり口で私を待つ殿。つっかけを脱いで、廊下に上がるまで私を待つ。廊下を歩き出すと、常に私の前の方を歩く。部屋にはいると、一目散にご飯のある出窓に、飛び上がる。カリカリとご飯を食べる。それが君の日課なんですね。そんな仕草を見ていると本当に、気持ちが安らぐんですよ。今日も明日も、明後日も、ずーっとずっと。陸もだよ。


人を励ます99歳の詩人。
数日前に、朝日新聞の人欄に99歳の柴田トヨさん、という人が紹介されていた。詩人だそうで、なんと92歳の時から、息子さんのすすめで詩を作り始めたそうな。その詩が本になって大人気だとか。その本のタイトルは、「くじけないで」。さっそくネット検索をして、幾つかの詩を見つけた。しっかりして繊細で、いい詩です。くじけないで、というのは、自分を励まし、息子さんを励まし、人を励ましている言葉なんですね。詩というのは、優しい気持ちに、まっさらで純粋な気持ちにならないと書けないものです。人を励ますときに、頑張れよ、という言葉があります。誰かが言っていたんだけど、うつ病の人に、頑張れよ、と声を掛けたら、その人はその後、電車に飛び込んで自殺したという。頑張れよ、という言葉は、ある人の場合は背負いきれない苦痛なんですね。頑張れなくて、頑張れなくて、精神的にへとへとになっているのに、頑張れよと声を掛けるのは、残酷なことなんですね。こんなときに、くじけないで、って言葉は肩の荷を降ろすことができるのだと思う。

で、トヨさんは、どうやって詩を書くのかというと、昼間は忙しくって書けないそうです。マスコミやいろいろな人が柴田さんを訪れるらしいから。眠れない夜に書くそうです。昼間に浮かんだいい言葉だな、というのをメモしておくんだとか。そうなんですね、メモってのは大切ですね。ふーっと思い浮かんだ言葉なんて、あっという間に消えちゃう。なんだっけ、なんて必死になる。そのうち、なんだっけ、ということすら忘れてしまうんだから。メモは大切ですよね。頭のメモリーの軌跡を、ハードディスクに残せたら、どれほど役に立つのだろうなとおもう。ま、くだらん考えの方が、多いだろうけど。で、柴田トヨさんの言ういい言葉とは、どこか生きている、なにかはっとする言葉、だそうな。柴田さん曰く、栄養とって、くだらないこと考えないで、楽しいことを考えて暮らしていこう、と。くじけないでって、人にも言っているのだから、自分がくじけないように、ですって。柴田トヨさんの詩は、ひとつの作品に1週間以上の時間をかけて、生み出されたそうです。くじけないで 本当にいいタイトルですね。99歳という、人間の厚みを感じさせます。私も、くじけないで、いこう。

それにしても、くだらないことを考えて、くだらないことをする人が、多すぎるのですね。困った世の中です。なかなか、いい世の中にはなりませんね。なんでだろう。みんな、柴田トヨさんの詩に触れるといいのに。