おおきにおおきに、と、微笑んで言う母。

去年の8月に、二度目の脳梗塞を発症して入院した母。1週間もすれば、意識もかなりはっきりして、顔に表れる痙攣もほとんどなくなった。病室内もしっかり空調が効いて涼しいのだが、母は暑がりだった。

私が子供の頃は、もちろんエアコンなどはない。母はいつも首に塗れタオルを当てて、裁縫仕事に精を出していた。子供の頃は、そんなに母が暑がりとは思わなかったのだが、歳のせいだろうか、病気のせいなのか、体温のコントロールが効かないのかもしれない。

ベッドに横たわる母は、いつも額に汗を滲ませていた。私が母にできるのは、汗をぬぐい、団扇で風を送るくらい。その汗をぬぐう度に、おおきに、おおきに、と母は言う。母の精一杯のコミュニケーションかもしれない。

多少認知症を患っていたせいもあり、私を母の姉の息子、つまり甥っ子と勘違いすることもしばしばあった。私は、母さんの息子だよ、と話しかけると、うんうんと肯いた。母に対して、何かをすると、おおきに、おおきに。母は言う。

確かに、ありがとうより、おおきにの方が、ニュアンスが柔らかいのかも。もう母はいないが、母が抱いた感謝の気持ちはしっかりと表現しなければ。まいどおおきに、じゃないけど、ありがとうを言葉にすることの大切さを忘れないように。今日は3カ月目の命日。さっき妻と、奈良のお墓に行ってきました。