満開の桜を、見ることもなく。

夕方の陸と散歩の折に、時々出会うワンちゃんがいた。初老の方が、ときどきタバコを吹かしながら、白いワンちゃんと黒いワンちゃん、2匹を連れて歩いていたのを、よく見かけた。

陸と相性が良くないのを先方は、わかっているのか、道ですれ違いそうなときは、路地奥に入って、私たちが通り過ぎるのを待っていてくれた。それでも、黒いワンちゃんの方が、陸に対して吠える。陸は、知らんぷりを通り過ぎる。

両側に歩道がある道の時は、こっちが反対側の歩道へ道路を横切って、正面衝突を避ける。道路向こうを歩く私たちに対して、黒いワンちゃんは、じっとこちらをにらんでいる。相変わらず、陸は知らんぷり。そんなわけで、向こうのご主人とも軽く挨拶をすることに。思ったよりも感じの良さそうな人みたい。

今年の2月くらいからか、その人は白い犬だけを連れて歩いていた。あれ、どうしたんだろ。そして、先週、その方が奥さんと一緒に白い犬を連れて歩いているときに、ばったりと遭遇。大人しい白い犬は、ただただじっとしていた。気になって、初めてだけど、話しかけた。

いつも一緒にいた黒いワンちゃんは、どうしましたか、と聞く。すると一緒にいた奥さんが、先月なくなりましたと言う。今年を迎えられるかと思っていたんですが、14歳でした、と。そうなんだ。いつも陸に吠えていたんで、そんなに歳を重ねていたなんてわからなかった。でも、こういうときに、どのように言葉を返せばいいのかがわからない。白いワンちゃんに、君がその分、元気に生きなくっちゃね、としか言えなかった。

そのワンちゃんも、なんだか元気がない。だから、奥さんも一緒に歩いてたんだと思う。そんな話しをした直ぐそばには、満開の桜が私たちを見守っていた。そうか、この桜の花を見ることもなく、いってしまった。でも、空の上からなら、もっともっと沢山の桜が見えるのかも。