今度は、陸がおせちを食べた。

今度は陸

朝の8時過ぎだが、なんだか騒がしい。向こうから妻のヒステリックな声が聞こえた。しばらくしてベッドで寝ぼけている私のところに、落胆した妻がやってきた。陸がおせちを食べたのよ。もう一度作らなきゃ。買いにいかなきゃ、と言う。また私は、しばし眠る。

私が起きると、妻は陸と散歩ついでに、例のおせち材料の買物を済ませていた。で、何を食べたかというと、ぶりの照り焼き、亀甲イカである。妻は、和室の片隅に作ったおせち材料をラップに包んでずらり並べておいた、いわば仮の置き場所である。実は昨日の夜、陸と殿はこの場所を下見していた。私が風呂、妻が台所にいたとき、いつのまにかその和室の戸を開けて、彼らが入り込み、一緒に出てきたという。もちろん、妻はすぐさまおせちを確かめたが、すべてに何も手を、というか口をつけてはいなかった。これが油断だった。

どうも、陸は私たちが完全に寝静まった、午前7時前ぐらいに、こっそりと和室に戸を開けて忍び込み、発泡スチロールの容器にラップを掛けた2品、ぶりの照り焼き、亀甲イカ、これだけをきれいに平らげたのだ。妻が7時頃、トイレに立ったときは、なぜか陸は妻の直ぐ下で寝ていたという。で、8時に確かめると、妻の二日連続の悲鳴となったわけである。

いやー、やってくれます陸君は。さすがシェパード、頭がいいというか、準備して、チャンスを狙い、標的を確実に一切れも残さずに平らげる。たいしたものだ。おっと褒めてはいけない。その後の散歩も、いつもは喜んで飛び出してくるのに、今日はなかなか起き上がらなかったという。お腹いっぱいで、動けなかったんだ。

今日は朝から、さんざん叱られた陸君。満腹の様子で、散歩の後はズーッと布団に潜り込んでいる。妻はさっそくその2品を作り直した。そんなに手間の掛かるものじゃなかったから良かったけど、ミートローフだったら立ち直れない、と妻は言う。おかげで、イカは高いものについた、と。妻は、午後におせちの材料をお重に入れ始めた。陸君は、妻の下で伏せして、お行儀よく作業を見上げている。もうおこばれはないぞ。さんざん食べたでしょ。