大変だー、殿ちゃんが消えた。

殿の無断外泊

猫の殿ちゃんが、私のちょっとした不注意で、真夜中に逃げてしまった。夜中の1時、いつものように私は玄関を開けて外に出て、直ぐに戸を閉め、たばこを一服。それが私の習慣だ。室内でタバコを吸わない、それが近年私が決めているルール。妻にも、犬や猫にも煙は良くないと思うから。

それじゃー、止めろって。それは無理です。これが私のリラックス。さてさて、殿ちゃんの深夜脱出ですが、その時は全然気付かなかった。なにか、遠くで鈴の音が鳴ったような。ん、まさか。胸騒ぎ。タバコの火を消して、家の中に入る。ひとつひとつ部屋を確認する。いない。ベッドには、妻と陸君が寝ている。納屋にはワンチ君が寝ている。どこにも、いない。てえへんだー。えれーこった。

もう一度、状況を思い浮かべる。その十数分前には、殿ちゃんが珍しく鳴いた。それも、陸君たちがいる納屋の高い棚の上で。そこから部屋に戻ってからも、ガラス戸越しに外を窺う様子。そうか、お友達が来ていたんだ。そして、私がタバコを吸いに出る時を見計らって、私が戸を開けたときに、素早く脱出した。それしか考えられない。頭のいいやつ。おっと、そんな場合ではない。

しばらくして、私は真っ暗な外に出た。深夜の住宅街に、大声で名前を呼ぶわけにもいかない。彼の好きなビーフジャーキーの袋をバリバリと握った。部屋では、こうすると殿ちゃんは寄ってくる。根っから食いしん坊で、食べ物の音をさせると直ぐに寄ってくる。闇夜に袋の音は吸い込まれ、シーンと何の反応もない。もう一度、繰り返す。周囲は全くの無音で寝静まっている。場所を変えて、またやってみた。じっくり耳を澄ますが、全く気配がない。

さらに、1時間後にも、やってみたがムダであった。もう3時を回っている、もう寝る。妻も陸君もよく寝ている。妻には、朝起きたら、話そう。今、話すと、心配性の妻は、きっと寝ることができない。私は、布団に入った。妻と、陸君の寝息が聞こえる。外は静かだ。私は、もう一度、耳を澄ます。遠くの方で、犬の鳴き声がした。殿ちゃんは、その近くにいるのだろうか。もう寝よう。朝を待とう。そして、妻に。耳を澄ましながら、私はなかなか寝つけなかった。