月が窓の外を、行ったり来たり。

帰途の車内

寝台の上段から、隣のボックスの下段に移ることができて、ひと安心。夜の車窓から、外を見やると、ぽっかりと月が浮いている。時間は、午後7時22分。前日の満月を過ぎた下弦の月。それ以外には何の明かりも見えない。月の遙か下が、微かに光る。月が反射している。海だ。真鶴辺りの相模湾に面したところだろう。新幹線の車窓じゃー、決してこんな風情は味わえまい。

電車が右に、左にカーブを切るたびに、さっきはこちら、こんどはあちらに。月が車窓を移動している。これも面白い。缶ビールを片手に、おにぎりをつまみにしながら、3日遅い私だけの月見。さて、熱海を出た。眠い。ほろ酔いも手伝って、横になろう。

結構、寝ただろうか、29日と日付が変わり、夜中の3時すぎに目が覚める。通路側のベンチに腰掛けて、窓のシェードを開け、外を様子見る。もちろん真夜中、まわりも真っ暗で道路の街灯だけが後方に去っていく。どこだ、ここは。なぜか無性にここはどこ、を確かめたくなる。目印になるもの、何かの看板、真っ暗でわかりはしない。駅舎が近づいた。駅名は、吉永。んー、そんな駅名、知らない。ん、どこだ、どこだ。次の駅は、和気。聞いたことがある。姫路の向こう、岡山の手前か。次は、熊山。なんだこの駅名。どこでもありそうじゃん。意地でも、今はどこ、を確かめたくなる。読み取れない駅名もある。小山が連なる向こう、稜線に沿ってほの明るい。そこは、大きな都市か。次は、駅名が読み取れた。東岡山。なるほど、なっとく。これで、また眠ることができる。

列車は、岡山駅に停車した。他の列車か行き来することのない、深夜のホームがガランとしている。時折、ヘルメット姿の作業員が見える。誰もいないときこそ、取りかかれる作業がある。ご苦労さまである。岡山を、出た。私は、寝る。

朝の6時を過ぎたのか、車内放送が始まった。また列車が30分ほど、遅れているとか。用事は済んでいるし、あとは帰るだけ、急ぐ旅ではないからいいけど。またですかい。南側のシェードを上げると、海が見える。岩国を出ているはずだから、当然瀬戸内海。天気は、イマイチだが海の向こうに小島がいくつも見える。おいしい魚が種類も豊富な、海に面する岡山県から、妻は私とともに大分に移った。海が近くにあるのは、いい。大分も、おいしい魚は、いっぱいだから。などと思い巡らせながら、列車は走る。大分を目指して。