そして更地に、なっちゃった。

半年ほど前です。陸との散歩でよく通り過ぎる住宅街に、その家はあった。大型ゴミが家の前に積まれていて、引っ越しでもするのかな、と。それ以来、気になって、いつもその家の様子をチラリと窺う。人気がない。やっぱり引っ越したんだ。

築20年から30年くらいだと思うけど、まだまだ十分に住むことができる瓦屋根の2階建て住宅。どうするんだろうね、などと思いながら、日々、その前を通り過ぎる。

2カ月ほど前、駐車場入口に突然の看板が設置され、売家と書かれていた。そうか、やっと売ることを決意したのか。いいご家族に住んでもらえるといいな〜と、他人事ながら、やっぱり家は大事にしてほしいから。私が住む近隣にも、誰も住んでいない家が数軒あります。家は、きっと、泣いているだろうな。寂しいよ。誰も住んでくれないよ、と。

で、2週間くらい前に通りがかると、その家は、囲いに覆われ、ショベルカーが解体作業に入っていた。なんと、もったいない。半分ほど崩された無惨な家が、さらけ出されている。十分に住むことができる、しっかりしたお家なのに。数日後に、通り過ぎると、見事に、草一本も生えていない更地になっていた。

まだ私の中には、かつてあった家のイメージがしっかり残っている。しかし時が過ぎれば、段々と記憶は薄れ、かつてあった家のイメージより更地のイメージの方が強くなり、何が建っていたんだろうね、と。ないものは、やがてイメージさえ消え去っていく。そして、もう思い出すこともない。またその土地に看板が立った。売地。この更地もまた、泣いているだろうね。誰も遊びに来てくれないよ。寂しいよ。はいはい、陸と時々、立ち寄ってあげますから。陸の好きな草が、しっかり生えたらね。昨日、うっすらと、雑草が生えていた。よかったね、新しいお友達ができて。